かなりご無沙汰していた海外モノの話になりますが、厳しさを増す世界情勢の中1か月かけてドイツからとあるセット品を入手しました。
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それがこちら、Stelco Junior Expressです。存在自体は去年あたりから知られるようになりあのプラレール資料館にも数点掲載されていますが、偶然海外オークションで出品物を見かけたので思い切って落札してみました。ちなみに資料館には未掲載のセット。

先にこの製品を販売していたStelco(シュテルコ)*1というメーカーについて触れると1935年にドイツ・フュルト(Fürth)という街で創業した玩具メーカーで、二次大戦後にプラスチック製玩具で成長するものの1976年の工場火災の後、1979年に倒産しています。蛇足ですがフュルトはドイツ初の鉄道が開業した地かつおもちゃの町として有名で、鉄道模型メーカーのトリックス(TRIX)やタミヤの現地法人タミヤ・ヨーロッパなども本社を構えている都市です。

ではなぜ遠く離れたドイツのメーカーからプラレールのような玩具が発売されているのか、と言えば同社が1970年代頃からトミーと業務提携を行うようになったからとの事で、1979年の倒産後はトミーに吸収合併(Tomy Spielwaren GmbH)されているようですが、その後の行方についてはまだ情報が出てきておりません*2

参考にも以上の情報はいずれも以下のサイトがソースとなっており全文ドイツ語ながら当時の製品カタログなども見る事ができます。

かなり長い前置きとなってしまいましたがセットを開けてみましょう。
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まず開封前の時点からレールが若干濃いような気がしていましたが、プラレールのレールと並べてみるとその差は歴然。更に…
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なんと裏に"W.GERMANY(西ドイツ)"の印字が見えるため、レールはシュテルコで生産されていた事が伺えます。海外でライセンス生産されていた事例としてはスペインのヘイパー(Geyper)社の"Play-Rail"が有名ですね。

現地生産されているのはレール部品に限らず、情景部品や車両にも該当します。
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まず動力車となるC12はかなり仕様が変えられており、摩擦ゴム同士でモーターから車輪へ伝達する"旧動力"ではなく後の新動力のようなモータからギヤで車軸へ伝達する方式となっています。
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またナンバープレートのシールが見当たらなかったので剥がれたのかと思いきや車体に直接刻印されており、これもオリジナルでは見ない仕様です。これ以外の相違点としてはスイッチが黄色モールドへ変えられている、前側の凸連結器が省略されている点などが挙げられます。

ただし資料館に掲載されているセットはC12のみトミーからのOEM供給(香港製)になっている*3との事で、途中で生産国が変わっている事になりますが時期などについては不明です。そもそも西ドイツ製の動力車が発見されたのは今回が初で、従来の「動力車はシュテルコで生産できなかったのでトミーが供給した」という仮説が崩れてしまう事に……
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更に目を引くのが貨車で、ついに本家には存在しないシュテルコ独自の設計となります。今回のセットに付属していたのは
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無蓋車と
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タンク貨車の2種類になりますが、シャーシは共通で上回りのみ異なるスタイルとなっており、後のプラレールの"のせかえ遊び貨車セット"を彷彿とさせます。なおタンクはビニール製となっておりスポイトや空気入れのような柔らかい感触です。
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裏返すとプラレールと中間車と大差ないように見えますが、リングタイプ連結器がピンと一体型となっており直接車両に取り付けられるようになっていました。同時期のプラレールではピンが欠落してリングタイプが付けられなくなった例を見かける気がするのでこれは合理的な改良ですね。

一方で情景部品として駅が1つ付属していますが
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笛コントロール駅にクレーンが付いているというやはりオリジナルの仕様。というよりこれトミカの"建設現場"に付いてくるクレーンと同じな気がしますが、気のせいですかね……?
(シュテルコのカタログを見るとトミカも供給を受けていた形跡があるため、あながちありえない話ではありません)

なお組み立てていないのは材質が固いことに加えて接合部にバリがあり、取り付ける時に割れてしまわないかかなり不安だったからです。駅に限らず品質は本家には今一つ及ばない印象を受けます。
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アクセサリも何点か付属していますが、架線柱は赤ではなくオレンジ色、立ち木は土台と幹が一体化されているなどの相違点があり、腕木式信号機に至っては完全にオリジナルのものでした。とはいえ全て現地生産かつ自社製品もあるメーカーのため、ある程度内容はシュテルコ側で自由に決めていたという事なのでしょうか…?
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最後に箱の裏側などをご紹介しますが例によってレール部品の紹介など関連商品の宣伝となっており、シュテルコの自社製品と組み合わせてレイアウトを組める点が強調されています。建物類はプラレールへ逆輸入されていたらまた別の遊び方が生まれていたかもしれませんね。ハウスブロック?そんなの知らない
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ただレイアウト例をよく見るとプラレールのレールが混ざっていたり、このサイトのカタログに載っていない真っ青なEF58が写っているなど試作品特有のちぐはぐとした様子が表れています。ひょっとしたら試作品はトミーで製作していたのかもしれませんが、憶測の域に過ぎません。

しかし箱の中で一番の大発見だったのは側面裏の刻印で
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1979年11月5日と読めるものの、シュテルコ社が同年3月6日に倒産しているようなので倒産以後に製造された製品という事になってしまいます。しかもトミーのロゴが追加された様子も無いので一体誰が製造したのか全くの謎。

という事でセット品を一通り見て回りましたが、多分に洩れず新たな発見があったと同時に更に謎が深まる結果ともなってしまいました。販売終了から40年近く経過しており、かつドイツ周辺でしか販売されていなかった製品がこれ以上解明される事があるのか、気になるところです。

なおこれは完全におまけ要素となりますが側面には値札が貼られており
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しかも一度値段を貼り替えた形跡までありました。もし39.80ドイツマルクだとすると日本円で約2590円(当時のレート)になるので明らかに安すぎますし、まさか2002年のユーロ流通開始までどこかの店でひっそり売られていたわけでは………

*1 2代目社長ハイノ・シュテルター(Heino Stelter)が由来のため本稿でもカナ表記はそれに準じ"シュテルコ"とした
*2 現在のドイツ法人であるTOMY Deutschland GmbHは2005年設立
*3 画像提供者であるDuck GWR氏のレビュー動画で確認可能